今回は相談事例を通じて、遺産分割調停手続きの最中で見つかった被相続人の貸金庫への対応について、ご紹介します。
現在、私は夫の相続に関して、家庭裁判所で遺産分割調停手続きを行っているのですが、手続き中に夫の書斎で「貸金庫カード」なるものを見つけました。そこで、カード記載の金融機関に確認してもらったところ、夫は私の知らないところで貸金庫を作っていたようです。もう調停も進んでいるのですが、この貸金庫はどうすればよいですか。
新たに貸金庫を発見した場合には、速やかに家庭裁判所と他の相続人に対してその旨を報告し、調停の協議対象に含める必要があります。そして、「当該貸金庫の賃借人の地位」につき誰が取得するのかを決める必要があります。
以下では、上記の対応を怠り、貸金庫の存在を抜きにして調停が成立してしまった場合のリスクについて簡単に説明します。
[リスク1]他の財産の相続手続きに支障が生じる可能性
仮に遺産分割調停が成立した場合でも、上記の貸金庫の賃借人の地位についての協議が含まれていなかった場合には、別途相続人全員の合意がない限り貸金庫を開扉することはできません。
そして、金融機関によっては、貸金庫の開扉・解約を先行していなければ、同機関にて管理する被相続人名義の他の財産(預金、証券等)についても相続手続きに応じないとする運用をとっているところもあります。他の財産について協議が成立している場合に上記の運用をとることには疑問がありますが、他の財産の手続きについても余計な手間や時間を要する可能性があります。
[リスク2]貸金庫に把握していない財産が入っている可能性
仮に遺産分割調停の後に貸金庫内から新たな財産が発見された場合、当該財産の分割方法について別途協議を行う必要が生じます(ただし、先行する調停にて、「新たに発見した財産につき全て特定人に取得させる」旨の合意ができている場合は除きます)。
[リスク3]貸金庫に遺言書が入っている可能性
仮に遺産分割調停の後に貸金庫内から遺言書が発見された場合、他の相続人から成立済の調停につき錯誤無効を主張される可能性があります。そして、裁判所によって当該調停につき無効だと判断された場合、遺言書の存在を前提として新たな協議をやり直す必要が生じます。
■中間合意の活用
以上のように、貸金庫の存在を放置することには複数のリスクが伴います。
そこで、貸金庫を発見した場合には、遺産分割調停手続きに時間を要する見込みであっても、少なくとも貸金庫を開けることについてのみ先行して合意を取り付け、貸金庫の中に新たな財産や遺言書がないかどうかを確認する必要があります(このように特定の事項についてのみ先行して合意することを「中間合意」といいます)。
対応を誤らないよう、注意しましょう。
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